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Posted 14 hours ago | 1 minute read

需給調整市場などの系統の安定運用を支える調整力(アンシラリーサービス)と電力系統の未来
電力といえば「発電」と「消費」をイメージする人が多いかもしれませんが、実はその裏側には、系統を一秒たりとも不安定にしないために機能する、膨大かつ精緻なサポート機能が存在しています。これがアンシラリーサービス、すなわち需給調整市場などを通じて供給される系統安定化のための調整力サービスです。世界の電力系統が再生可能エネルギーへと大きくシフトする中、このサービスへの理解はかつてなく重要になっています。GridBeyondの専門家が共著者として参加したIEEEの論文(英語)が、この課題にアンシラリーサービスがどう応えようとしているかを論じています。
アンシラリーサービスとは
アンシラリーサービスとは、電力系統の安定運用を支えるために提供される補助的なサービスの総称で、主に英国・アイルランドなどの欧州市場で使われる概念です。日本の制度に置き換えると、需給調整市場における一次・二次・三次調整力、周波数維持や電圧調整のための系統支援サービスがこれに相当します。再生可能エネルギーの導入が先行する欧州では、こうしたサービスの設計と市場化が日本より一歩先を行っており、日本市場の今後の制度整備を考えるうえでも参考になる視点を多く含んでいます。本記事では以下、アンシラリーサービスを「調整力サービス」と表記します。
調整力サービスの対象は幅広く、周波数応答や電圧制御から、系統事故時のブラックスタート対応まで多岐にわたります。従来はこれらのサービスの多くが、大型の同期発電機から副産物的に供給されてきました。しかし風力・太陽光が従来型の発電設備を置き換えるにつれ、系統慣性が失われ、事故発生時の周波数低下速度が速まるなど、従来の供給構造は大きな転換点を迎えています。
論文は、調整力サービスが安定した系統運用の根幹であると主張しています。ただし、大型同期発電機が主役だった時代に系統を支えていたサービスの形は、いま大きく変わりつつあります。速度・柔軟性・技術的な中立性を重視した新世代の市場商品として再設計・拡充され、場合によっては置き換えられようとしているのです。高速周波数応答(Fast Frequency Response / 日本の一次調整力に相当)や柔軟なランプ調整力といった新たなサービスが台頭し、蓄電池・グリッドフォーミングインバーター・需要側アグリゲーションが、その主要な担い手として存在感を増しています。
論文の結論として、調整力サービスは系統セキュリティの根幹であり、電力市場設計の中心に据えられるべきものだと述べられています。適切なインセンティブ設計、能力ある事業者の参入促進、そして系統が真に必要とするサービスが市場で正当に評価される仕組みの構築。これらはエネルギー転換における最重要の工学・政策上の課題のひとつです。
日本市場における調整力サービスの現状
IEEEの論文(英語)では日本市場についても詳しく取り上げられています。以下、該当箇所を抜粋・日本語訳してご紹介します。
C. 日本における調整力サービス
制度改革の経緯と規制の枠組み
日本の電力セクターは、2011年の東日本大震災と福島原発事故を契機に大規模な構造改革へと舵を切りました。電力の安定供給確保、コスト削減、再生可能エネルギーの導入拡大を目的とした自由化が加速し、2020年には発電と送配電の法的分離が完了しています。日本卸電力取引所(JEPX)は、かつてのニッチな市場から取引電力量の4割以上を担う主要な電力取引の場へと成長しました。また、全国の10エリアにわたる系統計画の調整と、50Hz・60Hzが混在する周波数エリア間の連系を担う機関として、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が設立されています。さらに、電力・ガス取引監視等委員会(EGC)が公正競争と中立性の確保を監督し、現代的な調整力サービス体制の基盤整備が進んでいます。
近年の制度改革とその影響
従来、各電力会社は広域連系に依存することなく、自社内でスピニングリザーブや周波数制御を自己調達してきました。2021年からは需給調整市場を通じた標準化が進み、一次調整力(FCR)・二次調整力(FRR)・三次調整力(RR)が競争入札によって調達される仕組みへと移行しています。また、FIT制度の特別不均衡スキームに伴う再生可能エネルギーの予測誤差を管理するための低速バランシング容量商品として、FIT電源向け三次調整力(RR-FIT)も設けられています。容量市場(2020年に初回オークション実施)の創設とあわせ、これらの改革によって従来の相対契約は置き換えられ、調達コストの低減と、蓄電池やデマンドレスポンスリソースを束ねるアグリゲーター主導型の仮想発電所(VPP)の普及促進が図られています。2050年カーボンニュートラルの目標も、こうした制度革新を後押ししており、太陽光の拡大と洋上風力導入計画を見据えた系統対応力の強化が着実に進んでいます。
調整力サービスの体系
日本の調整力サービスは、周波数制御・予備力・電圧サポート・安定性・系統セキュリティという従来型の分類に沿いながら、FIT電源向けの独自メカニズム(RR-FIT)を組み合わせた体系をとっています。
周波数制御はFCR(超高速)とFRR(手動または自動)で構成されます。予備力には三次調整力(RR)と、旧来の太陽光・風力電源に由来する変動に対応するRR-FITが含まれます。電圧サポートは系統コードにより義務化されており、ブラックスタート対応は大規模停電からの系統復旧を担う特定ユニットに委ねられています。
今後の展望と市場参加の動向
太陽光・陸上および洋上風力の導入拡大に伴い、日本では同期慣性の低下と周波数偏差の拡大への対応が急務となっています。大規模蓄電池やグリッドフォーミングインバーターを活用したFFRの実証試験が進められており、再生可能エネルギーの瞬時導入率が60〜70%に達する状況でも系統安定性を維持することを目指しています。アグリゲーターは、分散型蓄電池・EV・産業用フレキシブル負荷を束ねた仮想発電所(VPP)を通じてFRRやRRの入札に参加でき、出力抑制の削減とバランシング効率の向上に貢献しています。2050年の完全脱炭素化という目標のもと、合成慣性や動的線路容量評価、リアルタイム市場の拡充に向けた取り組みも進んでいます。こうした一連のイノベーションが系統の信頼性とコスト効率を高め、厳格な供給安定基準を維持しながら高水準の再エネ導入を実現する道筋を開きつつあります。
国際比較からみた日本の立ち位置
本論文ではさらに、アイルランド・英国・日本の3カ国を横断的に比較した考察(Cross-Jurisdictional Comparison)も行われています。各国の市場設計・調達方式・運用実績・課題を体系的に整理したもので、日本単独の分析ではありませんが、他国との比較という視点から日本の現状を客観的に把握するうえで示唆に富む内容となっています。以下、日本に関連する部分を抜粋してご紹介します。
この比較分析によると、日本の調整力市場はいくつかの構造的な課題を抱えていることが明らかになっています。特に注目されるのが一次調整力(FCR)の調達不足で、2024年度の実績では全国の調達不足率が年間84%に達し、東京・中部・九州の各エリアでは90%を超える状況が報告されています。これは、入札・落札量が必要量に対して慢性的に不足していることを示しており、市場参加者の拡大が急務であることを裏付けています。一方、アイルランドは系統の非同期電源浸透率(SNSP)が75%に達し、英国でも動的周波数抑制サービス(Dynamic Containment/英国の高速周波数応答サービス)などの新世代サービスが日次オークションで安定的に調達されるなど、再エネ比率の高い系統運用における先行事例として参考になる点が多くあります。日本が2050年カーボンニュートラルの実現に向けて再エネ導入を加速させるなか、調達の多様化とアグリゲーターの参入拡大が、系統安定性とコスト効率の両立に向けた鍵となりそうです。
GridBeyondとともに、日本の調整力市場の可能性を開く
調整力サービスの高度化は、再エネ導入を加速させながら系統の安定性を維持するうえで、日本にとって避けて通れない課題です。一次調整力の調達不足に象徴されるように、市場はまだ発展途上にあり、参入できる事業者・技術・知見の裾野を広げていくことが急務となっています。
GridBeyondは、調整力サービスの市場化が先行するアイルランド・英国・オーストラリアで培ってきたAI最適化技術と運用ノウハウを持つグローバルアグリゲーターです。2025年には一次調整力の運用を開始し、日本市場でもその実績を着実に積み上げています。FCRへの対応実績、複数市場を横断するスタッキング戦略、蓄電池の長期的な資産価値を守るデジタルツイン技術。これらを組み合わせることで、日本の蓄電池・再エネ事業者が直面する課題に正面から向き合うことができます。
調整力市場の本格拡大という転換期に、GridBeyondはその可能性をともに切り拓くパートナーとして、日本市場に深くコミットしていきます。
まずはお気軽にご相談ください。